#43 独言日記
いろいろが少し落ち着いて、ゆっくりできるようになってきた。
なってきたけれど、また少し、どうしたら良いのか分からない。
父に何かを言われても、いつもさらりと耐え忍んで、後から僕に愚痴を吐いていた母親が、
今日はっきりと、僕の目の前で、「疲れた」と言った。
「もういいかなぁ」「あの人より先に死んじゃいたいな」とも。
どう返したらいいのか、分からなかった。
ここ数日、父が入院して、家にいなくて。父以外の家族で過ごしてきた。
平和だった。とても、平和。
何を見ても、何を喋っても、突然怒号が飛んでくることはない。
話を遮られることもない。母がこき使われることもない。
平和だった。
父の退院の目途が立ったと知った時の、
「また地獄が始まるね」
という母親の一言が、頭から抜けない。
なら別れてくれ。そう小学生の頃から言ってきただろ。
とも、今は言えない。言って良いのか分からない。
親同士が互いに良くない依存をしている。それは僕も理解している。
けれど今、父がいないままで生活してみて、何か不自由があったわけではない。
むしろ自由だ。今まで得られなかった自由があった。
母親と話しながらご飯を食べたのなんていつ以来だろうか。いつもなら毎度、父が割り込んで口を挟んでくるから。
どうすれば、どう声をかけたら良かったんだろうか。
本当は両親を、両親共に心療内科に連れていきたい。二人とも疲れているんだ。
父は感情と記憶のコントロールが著しく苦手だし、母親はそれに当てられて疲れてる。
行けと言いたいけれど、父は絶対に行かない。あの人はああいう場所を、「頭のおかしい奴が行く場所」だと思っているから。
僕が言ってもきっと、無理だ。
一度死を望んで、首に紐をかけたところまでは行った人間なんだ。何かできるはずだ。
同じ場所に立ったことのある人間だからこそできることが。
でも、どうすればいいんだ。