#38 読書日記~変身~
珍しくちゃんと本を読んだ日記。
フランツ・カフカの『変身』をやっとちゃんと読みました。今までなんとなくの話だけは知っていたけれど、1から読んだのは初めて。
読んで真っ先に出てきたのは、話の内容以前に、メトロノームのような文を書く人だなという感想。
文体が淡泊というか、淡々としているというのは情報として知ってはいたけれど、いざ読んでみると本当に淡々としていた。すごく淡々。
文に抑揚がないというか、心象描写に熱がこもっていないというか。翻訳のせいはもちろんあるんだろうけど、それでもなんというか、本当にすごく淡々。貶しているわけじゃない。むしろ印象的だった。
内容。
大まかな流れは知っていたけれど、改めてちゃんと読んだ身としての感想。
グレーゴル報われなくない??
分からない。僕の読解力がないだけかもしれないけれど。
グレーゴル、家族のために働いて、ある日目覚めたら虫になってて、家族にぞんざいな扱い受けて、最終的に処理されて、グレーゴル以外の家族が幸せになるフラグが立って……って感じじゃなかった?
報われなくない??
いや知ってはいたけど。最後がそんな感じだってことも知ってはいたけれど。
だとしてもなんだろう、グレーゴルがかわいそうという感想が真っ先に出てきてしまう。
でも、虫としての描写というか、その節々が、ところどころ人間と、というか自分と重なるところがあって、良い意味で気味が悪かった。
寝床から出るまでの、部屋の戸を開けるまでの、あの長い長い、もぞもぞとした行動のとぐるぐる何かを考えこむ心象描写。昔の、精神があまりよろしくなかった頃の自分とそっくりだ。
美味しい食事よりも、なぜか腐ったものや生肉が食べたくなるのも、部屋のものを全部無くしたがるのも、いつのまにか自分が人間であることを忘れそうになっているのも。
今回買った本のあとがきにも書いてあったのだけれど、「もしこれが、虫になったという描写だけを除いた場合、どういう話になる?」というのを考えてみると、また違う話になりそうな気がする。それこそ心を病んだ人だとか、精神をおかしくした人だとか、そういう存在が主人公の話に見えなくもない。
もし「起きたら虫になっていた」というのが、グレーゴルの幻覚だったとしたら。周りからは普通の人間に見えていて、それが部屋を這いずり回ったり、何を言っているのか分からない言語で叫んでいたとしたら。また恐怖の意味合いが変わってくる。
いろいろ考察もできるお話だった。何度読んでも家族は酷いと思うけど。
自分達の仕事を頑張る邪魔をしたから、と言われたらそれはそうなんだけど、それ以前に家族はグレーゴルに養ってもらっていた身じゃなかったのか?
それでいて兄が虫になった!捨てよう!と見殺しにして、なんだか人生うまくいきそうだね!は酷いんじゃないか。
という個人的な感想も添えつつ、それでいてグレーゴルの几帳面な真面目さに呆れたり、妹の優しさと環境に同情したり、結末に酷いと言いつつも少しは気持ちがわかる気もしたり。
個人的に、「家具を片付けたら、あの子のことをかまおうとしないということをはっきり言ってしまうようなもの」という母親の台詞と、その時のグレーゴルの心情は特に好き。
いつの間にか人間に戻ることを諦めかけていたことに気付いたグレーゴルは、その言葉と母親に感謝するけれど、いざ自分の姿を見た母親は叫んで逃げていく。良い言葉だし、教官もしたけれど、まぁそう綺麗事通りにはいかないよね、という展開含めて、とても好き。
ちゃんと読んでよかった。おもしろかったな。やっぱりたまの読書はいいものだ。
また読もう。